mathichenの酔いどれ日記【Hatena版】

~midnight dribbler~(ウサギ畑でつかまえて)

最後の晩餐、永遠の祝福~バベットの晩餐会~

芸術の秋と食欲の秋が混在する二本立て記事よ





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19世紀後半、デンマークの辺境の小さな漁村に、厳格なプロテスタント牧師(ポウエル・ケアン)の美しい娘、マーチーネ(ヴィーベケ・ハストルプ)とフィリパ(ハンネ・ステンスゴー)は住んでいた。やがてマーチーネには謹慎中の若い士官ローレンス(グドマール・ヴィーヴェソン)が、フィリッパには休暇中の著名なオペラ歌手アシール・パパン(ジャン・フィリップ・ラフォン)がそれぞれ求愛するが、二人は父の仕事を生涯手伝ってゆく決心をし、歳月がたち父が亡くなった後も未婚のままその仕事を献身的に続けていた。そんなある嵐の夜、マーチーネ(ビアギッテ・フェザースピール)とフィリパ(ボディル・キェア)のもとにパパンからの紹介状を持ったバベットという女性(ステファーヌ・オードラン)が、訪ねてきた。パリ・コミューンで家族を失い亡命してきた彼女の、無給でよいから働かせてほしいという申し出に、二人は家政婦としてバベットを家におくことにした。やがて彼女は謎を秘めつつも一家になくてはならない一員となり、祖国フランスとのつながりはパリの友人に買ってもらっている宝くじのみであった。それから14年の月日が流れ父の弟子たちも年老いて、集会の昔からの不幸や嫉妬心によるいさかいの場となったことに心を痛めた姉妹は、父の生誕百周年の晩餐を行うことで皆の心を一つにしようと思いつく。そんな時バベットの宝くじが一万フラン当たり、バベットは晩餐会でフランス料理を作らせてほしいと頼む。姉妹は彼女の初めての頼みを聞いてやることにするが、数日後、彼女が運んできた料理の材料の贅沢さに、質素な生活を旨としてきた姉妹は天罰が下るのではと恐怖を抱くのだった。さて晩餐会の夜、将軍となったローレンス(ヤール・キューレ)も席を連ね、バベットの料理は次第に村人たちの心を解きほぐしてゆく。実はバベットは、コミューン以前「カフェ・アングレ」の女性シェフだったのである。そして晩餐の後パリへ帰るものと思っていたバベットが、この晩餐に一万フラン費やしたことに姉妹は驚くが、やがて今後もこの地に留まりたいというバベットの真意に思い至り、胸をつまらせるのだった。

( MovieWalker:バベットの晩餐会より引用 )






優れた芸術家が貧乏になる事は無い
経済力云々じゃなくて、凡人には大金持ってしても絶対得られない天賦の才能が財産であるためよ
漫画‘ガラスの仮面’で、姫川亜弓北島マヤに敗北感さえ覚えるのも
どんなに努力して成果出したって、作られた天才を自覚しており、神の子の前には物の数じゃないから




「あの方々は、私のものだったのです
あの方々は、お二人( * 牧師家姉妹)には理解する事も信じる事も出来ないほどの費用をかけて
育てられ、躾けられていたのです
私がどれほど優れた芸術家であるかを知るために
私が最高の料理を出した時、あの方々を幸せにする事が出来ました」




バベットの不幸は、パリを襲った革命により、自分が優れた芸術家であるかを知る『観客』を失った点にある
最高級料理を堪能するに値する、バベットを一流シェフに育て躾けた貴族階級はもう、いない
「皆、亡くなられてしまったのです」
バベットの、料理人としての、芸術家としてのエゴと絶望が滲み出る
何もかも失った現在どうやって、観客を幸福にして、いま一度自分の存在価値を見出せるのか?




ムッシュ・パパンがバベットに語ったという言葉が
「次善のものに甘んじて満足せよなどと言われるのは、芸術家にとっては恐ろしい事、耐えられぬ事
『自分に最善を尽くさせて欲しい、その機会を与えて欲しい』
芸術家の心には、世界中に向けて出される長い悲願がある」




従って
「彼女は食事を恋愛に変える事の出来る女性だ
情事と化した食事に於いては肉体的要求と精神的要求の区別がつかない
かつては美女のために決闘を挑みもした
だが今のパリにはそれに値する女はいない
彼女を除いては――」
芸術は理解する方の素養も試され、将軍ともなれば相手に不足は見られない
古きパリの町を知る将軍の晩餐会出席が、バベットにとって、栄誉であり、同時に、自己との闘いであった




デンマーク語版は本名のカレン・ブリクセン名義、英語版は男性名のイサク・ディーネセンの原作では
(ちなみに、メリル・ストリープが1985年米国映画‘愛と哀しみの果て’(Out of Africa)で、カレンを演じた)
「でも、これが終わりじゃないのよ、バベット
私にはハッキリとわかるの、これで終わりじゃないって
天国でも、貴女は神様の思し召し通りの偉大な芸術家になるのだわ
ああ…」
フィリッパは頬に涙を流しながら、さらに続けて
「本当に、きっと貴女は天使たちをうっとりとさせる事よ」