mathichenの酔いどれ日記【Hatena版】

~midnight dribbler~(ウサギ畑でつかまえて)

ヴェルサイユの幽霊~罪深き者の悔悛と再生~

grunerwaldさんが昨夜


をご覧になって
「お~!凄い!ゾッとするほど狂気的ですねぇ。
最高の歌付きのアンソニー・ホプキンスとか、ジャック・ニコルソンあたりですねえ。
よくこんなのをご存じですね~ 初めて見ました。ナイスです!」
Dr. レクター、シャイニング…思いつかなかったは置き
アラ、未視聴はともかく、作品もご存知ではなかった?





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Marilyn Horne as "Samira the Turkish Entertainer"

ヴェルサイユの幽霊
ジョン・コリリアーノ(1938~)作曲 原作:ボーマルシェ罪ある母’ 台本:ウィリアム・M・ホフマン
指揮:ジェームズ・レヴァイン 演奏:メトロポリタン歌劇場管弦楽団/合唱団/バレエ団 
出演者と配役、曲名は、コチラ

第一幕

フランス革命で処刑された国王ルイ16世夫妻を始めとするフランス貴族たちの幽霊が暮らす宮殿の廃墟
革命200年後の現代も、そしてたぶん永遠に、「C'est la vie. (人生、こんなもんよぉ)。アハハハ~」の中
王妃マリー・アントワネット唯一人、憂鬱な顔


「不幸になってみて、初めて、人間は自分が何者であるかわかるのですね…
わたしはいままで、ただ無意味に歌い踊り…人生と戯れていただけのような気がします…」
確かにそうね
けど
「王妃自ら王侯貴族批判の作品に出演するとは何事じゃッ」
ボーマルシェ原作の‘セビリヤの理髪師’でロジーナを演じ、周囲の顰蹙受けたを思い起こすべし
良く言えば天真爛漫、悪く言えば軽薄
欧州随一の名門ハプスブルク家の血統だけが拠り所の世間知らず小娘
故国オーストリア、嫁ぎ先フランス、いずれの国に於いても、宮殿以外の人間社会を見た事あるの?…
国王の処刑後、母親による帝王学教育を恐れ、王太子を取り上げに訪れた革命委員会から
「そうとも、ワシらにも息子がいた
ワシらが息子に飲ませてやるミルクもなく
栄養失調で死んでいくのをただ黙って見ているしか出来なかった時
アンタは、贅沢な宮殿で、宝石を身につけ、笑っていた…」
…それほど民衆の怒りが爆発した革命の恐怖を忘れられない王妃の心にはトラウマが残っている
彼女に想いを寄せ、求愛するのが、劇作家ボーマルシェ
ボーマルシェはせめて彼女に心を開いて欲しいと思い
フィガロの結婚’続編オペラを彼女のために作り、そのオペラを通して歴史を変え
王妃は処刑されるのではなく、ボーマルシェと一緒に独立戦争後の米国移住する筋書きを考える
劇中劇の愛の二重唱にウットリした雰囲気の王妃。当然、ボーマルシェは口説こうとするわな
しかし、ブッサイクな野暮天丸出しでも亭主の自覚に目覚めた?ルイ16世が嫉妬し、決闘になる
決闘というけど、そもそも「我々は、幽霊だも~ん」、どちらも改めて死ぬ事おまへん
ルイ16世の勝利後、彼は自ら剣を抜いてボーマルシェに返すを見て、ハラハラしていた王妃が笑った
幽霊たちは王妃が笑えるようになったを見て「ヨカッタ♪☆」と喜ぶ

劇中劇がこれまた、何とも面倒な展開
アルマヴィーヴァ伯爵夫妻、フィガロとスザンナの召使い夫婦ともに、いまや中年のおっさんオバハン
伯爵夫妻の方は、20年前の不倫騒動が現在、新たな問題を招いている
奥方と小姓ケルビーノの間に生まれた息子レオン
殿様と愛人の間に生まれた娘フローレスティン
この二人が恋仲を、奥方の不倫を恨む殿様がどーしても許さないんだけど…
フィガロの結婚’幕切れで皆から凹まされるも、喉元過ぎれば、綺麗なおねーちゃん遊びに舞い戻った
奥方も諦めの境地に至るものの、孤独で、無聊を託つにも限界、ついつい一度だけ
ケルビーノは戦死し、奥方は後悔の念から冷遇に耐えているが、でも息子まで冷遇には母として申し訳ない
自らの罪持たぬ息子のため、フローレスティンとの仲を、召使い夫婦も並んで懇願する
…要するに、奥方の不倫は元を正せば、殿様の浮気性が元凶でしょがッ
自分は自分で庶子持ってるやんけを棚に上げ、娘を友人の陸軍大佐ベジャールスと結婚させたい
このベジャールスが食わせ者、彼こそが伯爵の財産狙う悪者を気づかずに

その中で、ボーマルシェの希望する筋書きとして
「王妃が伯爵にネックレスを託し、伯爵は英国大使にそれを売り、王妃を助ける資金にしよう」
だが、トルコ大使館で伯爵が英国大使に売ろうとすると、思わぬ邪魔が入る
トルコの舞姫に変装したフィガロが、ネックレスを奪い、変装がバレても、ドサクサに乗じてトンズラに成功した

第二幕

フィガロが作者の意に反した理由として
「自分は庶民の味方である。何故、王妃のような悪い女を助けなければならないのか」
王妃は怒る、作者は誤解を解くべく劇中劇中へ入る、すると王妃もまた自ら劇中劇中へ入る
王妃が追いかけたのは、自分が受けた理不尽な裁判の場面を見せるためだった
フィガロも王妃の怒りを理解し、彼女の味方についた
一方、ベジャールスが遂に、本性を現す
民衆を先導し、伯爵の舞踏会に侵入してネックレスを強奪、貴族たちを牢に閉じ込めた
自分の命が風前の灯にある、スッタモンダ起こしている場合ではない
この期に及んでようやく殿様も奥方に、「寂しかったんだね。済まなかった」。伯爵一家は和解する

ベジャールスの部下ウィルヘルムが王妃の独房の鍵を持っているらしい
スザンナと伯爵夫人の機転で鍵を奪う事に成功した
ネックレスはまだベジャールスの手元にあるが、ベジャールスの秘密が暴かれ、事態は好転する
民衆を指揮するベジャールスもまた貴族の身が判明じゃね~
伯爵一家とフィガロ夫妻は逃走に成功、気球に乗って大英帝国へ向かう

ボーマルシェは王妃に、「さあ、貴女が助かる機会を迎えましたよ」
だが王妃は、ギロチンの恐怖といま一度向かい合う事により、歴史の変動と時の流れを自分に照らし合わせ
「フランスのために処刑される事が、自分の使命だったのよ」
史実やベルばらのマリー・アントワネットは達観しなかったと思うけどね
歴史の歯車を逆転させようとするものは滅ぶ真理の見本であったと思う
ま、野暮は置いといて、歴史を変える愚を知るまでに成長した
自分の処刑場面を見届けた後、ボーマルシェの求愛を受け入れ、あの世でメデタシメデタシ





伯爵夫人役が、新進気鋭時代の、現在では数年以内の引退が公表されているルネ・フレミング
既にキャリア晩年ながら余裕しゃきしゃきの、テレサ・ストラータスやマリリン・ホーン
世界初演から20年以上経ったが実感出来る
初演後数年以内に再演されたけど、初演の時ほどインパクト強くなかったという評が出た
奇想天外な内容って旬のものというか、一度堪能すれば十分だったんでしょ
グレアム・クラークが圧巻の悪漢ベジャールス役再登場だけは評判良かった
適材適所の好見本であり、他の歌手では考えられないからね




全くの余談ながら
ボーマルシェを演じたホーカン・ハーゲゴール
イングマール・ベルイマン映画版♪魔笛のパパゲーノねの通り、スウェーデン
離婚した嫁さんが米国ソプラノ、バーバラ・ボニーだからというより、スウェーデン人自体が英語上手いじゃなく
スウェーデン人が、マリー・アントワネットに想いを寄せる役を演じる
METの配役担当、フェルゼン伯爵を意識したの!?