思う所あって
『ごめんなさい…』『生きててよかった!』収録の
パラパラめくってみた
1967年、週刊少女フレンドに『バラ屋敷の少女』を掲載し、漫画家として本格デビューした
大学を4年生で中退以後、週刊マーガレットを中心に作品を発表
中・短編をいくつか描いた後、1972年『ベルサイユのばら』の連載を開始
池田理代子にとって「最後の少女漫画」である『オルフェウスの窓』(1975年~1981年)の長編なども手掛けた関係?
1988年に刊行された全短編集2冊に収録される短編数は33と、20年選手の数字としては意外と少ないけど
『ごめんなさい…』『生きててよかった!』のように
池田理代子が得意とする、社会問題を背景に少女が成長する物語といった、重たい内容の作品が充実している
大学在学中、日本共産党系の日本民主青年同盟(民青同盟)に加盟して学生運動を経験していたからか
池田理代子が描く被爆の悲劇「真理子」(1971年) | そのたびごとにただ一つ、世界のはじまり~瀧本往人のブログ
ベルばら前年、1971年に発表された作品では
お気楽ノンポリ女子高生が覚醒し、街角で被爆者救援カンパに精魂傾ける大学3年生の秋の場面で終わる
他に、40余年後の21世紀を先取りしたのかよと言いたくなる『クローディーヌ…!』
男の子と同じなりをし、遊び仲間からクロードと呼ばれる少女クローディーヌ
一見、ベルばらのオスカル、オル窓のユリウスのような、男の子として育てられた女の子と思うでしょが
ユリウスの場合、ロシアを舞台とする第3部で子供産んでるし、彼女とオスカルは女性としての心や葛藤を持つに対し
クローディーヌは同体化を望むほど敬慕していた父の秘密を隠している抜きに、自分は男性だと主張するから
21世紀現在のトランスジェンダー男性が見え隠れして興味深い
精神科医の言葉「不完全な肉体をした男性」に絶望してピストル自殺を遂げる結末もね
33作品の中で一番ビビる短編を挙げると
結婚式後にハネムーンを兼ねたアメリカ転勤へと旅立つ花婿花嫁の前に
「遅くなってゴメンサイ」、スーツケースを手にヘッド・ドレス着た女が息せき切って現れる
…と書けば、内容の予想付く(・・?
異常な独占欲と自意識過剰な妄想が、周囲の人々を不幸に巻き込んでいく『パラノイア』
23歳で売れ残り認定受ける地方の田舎町に生まれ育ち、高校卒業後は東京に出た桐生とみ子
中学校、高校で同級となった祥子に
「ねえ、アナタ、ずっとワタシのことばかり見てたわね」「ワタシと友達になりたいんでしょ?」
彼女の存在すら知らなかった男子に
「ワタシ…男の人には、今興味が無いの」「だから、アナタがワタシをこれ以上つけ回しても無駄なんです」
という具合に、自意識過剰の誇大妄想な言動を取り続ける
白紙答案を出したに怒る現代国語担当、大学を出たばかりの若い男性教師に対しては
「クラスで特別扱いは嫌なので」を言わず、「ご自分の胸にお聞きになって下さい」
と、周囲の誤解を招く発言で、図らずも教師が学校を去る羽目に追い込んだりする
東京に出て以降も、バイトで働く有名な広告会社正社員上司男性と相思相愛の思い込みによる言動を取る
勘違い系ストーカーに近いけど、勘違い系ストーカーと異なるのは他人を気にしていない点
勘違い系ストーカーは概ね、想う相手の身近な存在、恋人や配偶者を敵認定し排除しようとするね
とみ子の場合、想う相手が本命との食事中に同席し、想う相手に一方的に話し掛け、本命に危害を加えない
上司と同じ湯飲み茶碗を用意するほど、自分が本命と信じ切っている
妄想劇場もいつかは破綻きたすので、ヘッド・ドレス姿で空港に現われる場面に繋がり、精神科送りになるんだけど
そこで初めて、とみ子の「本当の生い立ち」が知れる
とみ子自身は、6歳離れた美人姉いるが、自分はママの連れ子なので血縁関係持たないと、祥子に話していた
美人姉は、事実
実娘より継娘が可愛いパパ、とみ子に気がある姉恋人といった辺りが、妄想
ママの連れ子で姉と血縁関係持たないも妄想
桐生家実子でなく養女ながら、産みの母親が養父のイトコに当たり、姉妹はハトコ関係が、事実
とみ子入院先を訪れた養母が語った所によれば
とみ子実母は、オトコに色惚けして夫と5歳の娘を置いて家を飛び出したまま
実父も、娘にロクに食べさせない育児放棄の末に、何処とも知れない川っぷちに捨て子し行方をくらませたまま
それを桐生家が知って探し出した時のとみ子たるや、雨に打たれ、痩せさらばえた捨てネコのような惨状を呈していた
桐生家に迎えられた後、生活は安定したが
いつも姉と容姿を比較されて育ち、姉の婿となった男性はと言えばとみ子が幼少期から憧れていた遠縁の者だという
…実両親と暮らしていた頃から顧みられない存在と考え、何事にも常に渇望するうち、独占欲が鍛えられてしまったのやら(゜_゜>)
最後になって初めて、とみ子が人に危害加えないどころか、過去に殺人やらかしたことがわかるから、ゾッとさせられるぞ
病院まで見舞いに訪れた祥子に、とみ子は「運命の人と結婚するの」
優しくしてくれる自分の担当医と結婚する妄想を語る場面で
「運命的な結びつきは決して壊してはいけないのよ」
「そんなことをすると、土屋さんみたいに死ななくちゃならなくなるのよ」
高校時代、「男の人に、今興味無いの」と言い放った相手・土屋を、人知れず殺めていた
土屋がとみ子の親友である祥子と交際始めたを見て
「ワタシがダメとわかった途端、ワタシの親友に鞍替えするなんて人として信じられない」
「祥子が不幸にならないように」
んで、台風一過後、集中豪雨で水かさ増した川に、自転車通学する土屋を辞自転車ご突き落とした
これ、とみ子が広告会社上司との結婚妄想のためウエディング・ドレス他を誂える場面でとみ子自ら口にしているものの
田舎だが破格の資産家令嬢という妄想も並べているについつい騙され、やはり妄想と映ってしまう
ともかく、治療の一環か、今はとみ子の「運命の人」妄想に付き合っている担当医も運が悪けりゃ…