mathichenの酔いどれ日記【Hatena版】

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策士策に耽溺しないよう

メキシコのドイツ撃破を演出した戦術家
オソリオ監督が仕掛ける“次の一手”は?

池田敏明 2018/6/24 12:45

指揮官が練り上げたプランを忠実に遂行

 ワールドカップ(W杯)本大会のグループステージ第1節で、日本がコロンビアに勝利したことは大きな驚きとともに世界中に伝えられたが、最大の衝撃はメキシコが前回王者ドイツを下したことではないだろうか。ドイツのW杯での初戦敗戦はなんと36年ぶり。優勝候補筆頭格を下したメキシコは、コロンビア人指揮官フアン・カルロス・オソリオが練り上げたプランを忠実に遂行し、この歴史的勝利を手繰り寄せた。

 オソリオ監督の指揮官としての最大の特徴は、フォーメーションもメンバーも固定せず、さまざまな戦術を駆使しながら戦うことにある。時間をかけて相手を分析し、長所をつぶして弱点を突くためのプランを練り、それを選手たちに落とし込み、任務遂行にふさわしい11人を選んで試合に臨む。

 6月17日(現地時間、以下同)に行われた初戦のドイツ戦に向けては、昨年12月の組み合わせ抽選会で対戦が決まってから、実に6カ月間を費やして対策を講じてきたという。そして直前の約1週間で細部を詰め、完璧に王者と渡り合えるチームを作り上げた。右サイドバックでこの試合に出場したカルロス・サルセドはこう証言する。

「1週間、時間をかけてトレーニングし、その間にフォーメーションを変えた。さまざまなシチュエーションを想定し、どのような状況でポジションを上げ、そして下げればいいのかを体に覚え込ませた」

 この言葉から分かる通り、メキシコは防戦一方の戦い方を強いられたわけではない。FIFA(国際サッカー連盟)のスタッツによると、ポゼッション率はドイツの60パーセントに対して40パーセント、パス本数はドイツの595本に対して281本と、データ上はドイツが主導権を握っていたように見えるが、状況によってリトリートとハイプレスを使い分け、鋭いカウンターで何度もチャンスを作り、そのカウンターから得点を奪ったのはメキシコの方だった。

ドイツ戦の鍵は両サイドの選手

 オソリオ監督自身はドイツ戦のプランについて、このように語っている。

「われわれのプランは両サイドに選手を置くことだった。イルビング(・ロサーノ)はチームの中で最もスピードのある選手。そして(ミゲル・)ラジュンはゴール前まで攻め込んでいける選手だ。前半はいいプレーをし、ゴールを奪うことができた」

 ラジュンはこれまで左右のサイドバックでプレーすることが多く、右ウイングでの先発は驚きだった。しかし、彼はこの試合で5本のシュートを放ち、チームで断トツ最多となる51回ものスプリントを記録するなど、攻守両面で存在感を示し続けた。

 メキシコがドイツの攻撃を右サイド(メキシコから見た左サイド)に限定させていたというのはすでに広く語られているが、この戦術を機能させるには逆サイドから攻め込ませないようにコントロールする必要があり、ラジュンの右ウイング起用はこの点でも有効だった。オソリオ監督はそこまで見越して、彼をこのポジションで起用したのだろう。

効果的だったドイツ戦の交代カード

 試合中のオソリオ監督は、テクニカルエリアの端に座り込み、ノートに何やら書き込んでいる姿がおなじみの光景となっている。試合中も細かく状況を分析し、チームに微調整を加えながらゲームをコントロールしようと試みているのだろう。ドイツ戦の後半、両チームが選手交代のカードを切り、システム変更に踏み切る中でも、彼の戦術家としての側面が発揮された。

 まずは後半13分のカルロス・ベラからエドソン・アルバレスへの交代。ハイプレスや守→攻に転じる時のつなぎ役など、ハードワークに従事していたベラを交代させるのはチームにマイナスの影響を及ぼす可能性もあったが、オソリオ監督にとってこれは「プラン通りの交代」であり、ベラ本人には「60分間全力でプレーしてくれ」と伝えていたという。最初から60分しかプレーしないことが分かっていたからこそ、ベラは最初からフルパワーで走り続けることができたと考えられる。

 後半15分、ドイツはサミ・ケディラを下げてマルコ・ロイスを投入し、メスト・エジルのポジションをトップ下からボランチに下げてようやくペースをつかみ始めた。するとオソリオ監督はまず左ウイングをロサーノからラウル・ヒメネスに代え、攻撃時に左サイドの起点を残す戦術を採った。しかし率直に言って、これは特に守備の側面で効果的だったとは言い難い。機動力に欠けるヒメネスはドイツの素早いパスワークに対応できず、彼のいるサイドから突破される場面が目立った。そこでオソリオは次の一手を打つ。後半39分のラファエル・マルケスの投入である。

 39歳のマルケスは5度目のW杯出場で、しかも今大会限りでの現役引退を表明している。選手全員、そして国民からリスペクトされるリーダーであり、もちろん選手としても今なお高いレベルを維持している。彼の登場によってスタンドのメキシコサポーターは一気にテンションが上がり、選手たちも心の支えを得て集中力を再度、高めることができた。また、この交代に伴ってオソリオ監督は最終ラインを4バックから5バックに変更し、ボール奪取力に優れたマルケスボランチに入れて守備の安定を図っている。オソリオ監督によると、センターバック3人の布陣で戦うことも想定済みだったという。

メンバーはほぼいじらず、戦い方を変えた韓国戦

 準備に6カ月を費やし、直前のトレーニングで細部を詰めて万全のドイツ対策を練り上げたオソリオ監督。実際の試合ではそれがほぼ完璧に機能し、勝利を手繰り寄せることができた。ちなみに、メキシコ国民はそんなオソリオ監督の戦術に対し、これまで「一貫性がない」「メンバーを固定できていない」と猛批判していたが、ドイツ戦の勝利によって一気に手のひらを返した。称賛の嵐が吹き荒れ、SNS上では「#perdonosorio(ごめんなさいオソリオ)」のハッシュタグが溢れた。

 続く23日の韓国戦に向け、メキシコのメディアは大胆なローテーションの採用を予想した。筆者も大幅に選手を入れ替えるのではないか、特に初戦でハードワークを続けたハビエル・エルナンデスやラジュンには休養を与えるのではないかと予想していたのだが、蓋を開けてみると10人が同じメンバー。ウーゴ・アジャラと入れ替わったアルバレスが右サイドバックに入り、サルセドがセンターバックに回っただけで、中盤より前は全く同じ選手、同じ布陣でスタートと、完全に意表を突かれた。

 しかし、戦い方はドイツ戦とは全く違っていた。メキシコのポゼッション率はドイツ戦の40パーセントに対し、韓国戦は59パーセント。パス本数も281本から485本に激増した。ただしポゼッションを攻撃の手段として使っていたわけではなく、相手に攻撃させないためにボールを保持していた、という印象が強い。フィニッシュまでつなげたのは主にカウンターから。韓国が速攻を仕掛けてきたところを複数のプレスでボールを奪い、素早く前に運んでシュートで攻撃を完結させていた。

 J・エルナンデスが決めたチーム2点目は、ドイツ戦のロサーノの得点シーンとよく似たものだった。相手の速攻をブロックしてからのカウンター返し。これが今のメキシコの攻撃パターンの1つと言えるだろう。ドイツ戦に比べて自陣でボールを失う場面が多かったために多くのピンチを招き、終盤には1点を失ってしまったが、2-1で勝利して2連勝。決定機で確実に得点を奪ったメキシコが一枚上手だった。

 続く第3戦、27日のスウェーデン戦では勝ち点1を獲得すれば自力で決勝トーナメント進出が決まる(負けた場合も、他カードの結果次第で突破の可能性あり)。空中戦に強いヒメネスオリベ・ペラルタを生かす戦術を温めている可能性もあり、またジオバニ・ドス・サントスマルコ・ファビアンの機動力を生かす布陣で戦う可能性もある。オソリオ監督が仕掛ける“次の一手”に注目だ。

https://russia2018.yahoo.co.jp/column/detail/201806240004-spnavi/





ドイツ国民+mathichenさんの総意として

「オソリオ監督“次の一手”、ディエゴが泣くほどの神の手でありますよーに」

「我々も全身全霊で応援致しま~す」




取り敢えず、コンビニ行ったら、Tortilla買って食うとしよう